月 の 上

安静

記憶を消してもう一度今の人々と出会いたい、と思うことがある。 理由もわからずとにかく、今の境遇は幸せではあるのだけど、過去に受けた傷や毒の回りきって、もはや二度と素直な目で風景を感じる事ができない、のではないか。そんな気分になることが時にある。

理由がわからないと書いたがそれは嘘で、理由はわかっている、のかもしれないが、およそ解消することの出来ない、たとえば、リンゴが樹から落ちるとか、僕らは壁をすり抜けることが出来ない、それと同じように、飛べない、けれど飛びたいと思う気持ちを抑えることが出来ない、割り切れない、そんな現実をみんなはどうやって受け止めているのだろう、僕の魂はその焦がれに固定されてしまってもはや、砕いて落としてしまいたい、乾いて死んだ苔や泥、歯石みたいだ、そう思うことが時々、ある。

矢を受けるということはその一瞬で終わることではなくて、一生かけて永遠に貫かれ続けるのだ、そう思うことがある。 落とした影はその一瞬に消えてしまうけど、影の側は地面から這い出ることはないのだ、そう思うことがある。

あなたが手を振る時その所作の裏側もう一つ別の次元にいるこれまでのあなたが今のあなたの気持ちを欺きながら手を降っているのだ、あなたは幸せではあるのだけど、どこか違う世界からそれは僕らを見ている、どんな気持ちで、そう思うことがある。